- 2024/07/25
- 若さを保つ
- センテナリアン・元気な100歳を目指して
-
センテナリアンとは一世紀(センチュリー)、100年を生き抜いた人達をいう。日本では65,692人、世界では45万人を記録する。数年前にNHKで「100の世界 センテナリアン 健康長寿」という番組がありました。タイトルの鍵となる『食べ物、活動量、心』は、カイロプラクティックのテーマとする『精神、構造、栄養』に類似します。体内で密かに進む老化が、様々な方法で抑えられている。そして誰もが、やり方次第で健康長寿を実現できることが分かってきたことに興味をそそられました。
1. CPR数値
これまでに800人のセンテナリアンをみられてきた、慶応大学医学部の広瀬信義先生は、今年で101歳になられる田谷きみさんを例に、血液検査や認知機能の特定検査等をされました。すると、一般高齢者と違うある特徴が見つかりました。それは身体の中で起きている炎症の度合いです。炎症は二つに大別されます。一つは急性炎症で、怪我をした時に腫れ上がるなど病原菌から身体を守るために起こる一時的な炎症。もう一つは慢性炎症です。誰でも加齢とともに起こる炎症で、急性炎症とは異なり、ほとんど自覚症状がありません。田谷さんはこの慢性炎症が低く抑えられていたのです。
NHK「100の世界 センテナリアン 健康長寿」より
CPR数値は炎症を測る指標の一つで、血液検査で確認ができる。
基準範囲 0.30以下
要注意 0.31~0.99
異常 1.00
田谷さん 0.03
2. 自覚症状のない慢性炎症
体内で慢性炎症が起こると、サイトカインという炎症を引き起こす物質が体内に分泌されます。サイトカインは周囲の細胞を老化させるという悪循環から、更なる炎症が広がってしまう。そして、死んだ細胞の断片や老廃物が排出され、炎症に拍車がかかります。加齢とともに免疫機能の低下で、炎症の要因を取り除く機能も低下します。糖尿病、動脈硬化、肺疾患、心疾患などは慢性炎症が進行しやすくなります。
3. 健康長寿は環境要因が大きい
NHK「100の世界 センテナリアン 健康長寿」より
デンマークで行われた、同じ遺伝子を待つ双子の研究で、10万組の双子の寿命を生涯に渡って追跡調査しました。上図のグラフはA.B.二人の死亡年齢が近いほど赤い線に近づきます。調査の結果、同じ遺伝子であるにも関わらず寿命には大きな差が生じ、遺伝子25%、環境75%の要因があるという結果になったのです。南デンマーク大学のカール・クリスティアンセン教授によると、遺伝子だけで運命が決まるわけではないということが分かった。つまり誰もが健康長寿を実現できるという可能性があるのです。
ここ数年、エピジェネティクス(社会的環境によって生物学的反応)という言葉を見るようになってきました。健康長寿には生活環境も大きく作用するという事です。
4. では慢性炎症をどう防ぐのか?
NHK「100の世界 センテナリアン 健康長寿」より
アメリカの研究チームが長寿地域の生活様式を探ると、地中海沿岸地域イタリアのアッチャローリは人口2,000人のうち300人がセンテナリアンと報じられ、世界の研究者から注目されています。そして、研究が進められているのがこの地域の食事です。栄養士の元でヨーロッパの高齢者600人に地中海食を食べ続けてもらい、身体に起きる変化を調査しました。1年後の血液採取では、地中海食を適切に食べた人ほど炎症の数値が低くなる結果となりました。地中海に特徴的な魚、オリーブオイル、ナッツ、野菜、これらに含まれるオメガ3脂肪酸やポリフェノール、リコピンなどの炎症を抑える成分が影響を与えたのではないこと専門家はみています。
5. その気候風土に合ったものを
NHK「100の世界 センテナリアン 健康長寿」より
身体に良いとされる地中海料理やオリーブオイルなどを取っても、イギリスなどでは炎症のレベルは変わらず、すべての人に効果があるわけではない事が示されました。食事の効果は人種、ライフスタイル、性別など様々な要因によって違ってくる事も分かりました。中国のある地域で分かったことは、腸内細菌に特徴があるという事。それぞれの地域で相応しい食べ物があると考えられます。そこで、日本人には和食です。魚などに含まれるオメガ3脂肪酸のDHA、EPAは慢性炎症が抑えられる事が知られています。通常の紅花油より40%近く炎症が下がるという報告です。大豆など良質なタンパク質、ヒジキやニンジン、海藻、ポリフェノール、お味噌にも抗炎症成分が含まれます。
6. 豊富な活動量
世界的な長寿地域の一つ、イタリアのサルディーニャ島、この地域の特徴は男性のセンテナリアンが多い事。センテナリアン男女比が日本は1:9に対して1:1という。そこで、活発に精力的に働く男性の身体活動量の多さに着目しました。調査によると、この地域の1日当たりの歩行距離がなんと8km。そして、豊富な活動量に加えてこの地域独特の急勾配な地形です。暮らしの中に織り込まれた負荷の強い動きが健康長寿につながっていると考えます。
7. 豊富な活動で毛細血管を構築
長寿地域に人達は極めて優れた微小循環を持っている。微小循環は毛細血管の中で起きている目に見えない細かな血流を言います。細胞に酸素や栄養素を送り届け、溜まった老廃物を回収する。この微小循環が慢性炎症で起きた老廃物を運び去るのです。ローマ大学の長寿研究リーダーであるディ・ソンマ教授によるとイタリアの長寿地域の人達の特徴で、心臓や腎臓の機能は落ちていても微小循環な働きは高い事が分かりました。
8. 満足感と炎症との関係
人の満足感と慢性炎症との関係を研究しているカリフォルニア大学のスティーブ・コール教授によると男女84人を対象に行った調査で、日々の幸せや充実感や達成感、今の自分が好きかなど様々な満足感を聞き取る。その後、調査した人達の血液を分析した結果、満足感と炎症との関わりを待つ『CTRA遺伝子』が見つかりました。
CTRA遺伝子群は何らかのストレスを受けた時に働き、逆に満足感を得るとその働きが弱まります。満足感が慢性炎症を抑える事が最新の研究で明らかになってきているという事です。しかし、炎症を抑える満足感と炎症を増やす満足感があることも分かってきました。炎症を増やす満足感は食べたいだけ食べる。むやみに買い物をする。性欲や娯楽への暴走など自分の欲求を満たすためだけの過剰な快楽型の満足感です。炎症を抑える満足感はボランティアや家族を大切にするなど、世の中のため人のために働く、生き甲斐型と呼ばれる満足感。
9. 利他主義なプログラミング
社会に貢献する姿勢が健康長寿に結びついているとコール教授は指摘します。満足度の違いに遺伝子はとても敏感である事が分かったのです。人類は集団的な社会生活を行い、生き延びてきました。つまり人間の脳や神経は社会とつながり、お互いに助け合うよう生物学的にプログラムされていると考えられます。心の持ちようが健康に直接つながっていると科学の領域で明らかになってきたのです。食事や仕事などの行動が、その動機によって遺伝子の状態が変わる。例えば同じ買い物でも自分の欲を満たすだけのものであれば、あまり効果はなく、人を喜ばせるために買い物をするのであれば良い傾向にあるのです。